離婚協議書だけで養育費を差し押さえできる?公正証書との違いを行政書士が解説【2026年版】

離婚時に養育費の取り決めをしたものの、「離婚協議書だけで、相手の給与や預金を差し押さえられるのだろうか」「公正証書を作っておいた方がよいのだろうか」と疑問に思う方もいるのではないでしょうか。
2026年4月1日から、養育費の支払いを確保するための制度が変わりました。一定の条件を満たせば、これまで必要とされていた公正証書や調停調書などがなくても、父母間で作成した合意書面に基づいて、養育費に関する差押えを申し立てられる場合があります。
ただし、離婚協議書があれば、どのような場合でも養育費の全額を差し押さえられるわけではありません。
この記事では、2026年4月施行の法改正を踏まえ、離婚協議書による差押えの条件、公正証書との違い、養育費の支払いを確保するために確認しておきたいポイントを解説します。
離婚協議書だけで養育費を差し押さえできる?
結論からいうと、2026年4月1日以降に発生した養育費については、一定の条件を満たせば、離婚協議書などの合意書面に基づいて差押えを申し立てられる場合があります。
これは、2026年4月1日に施行された民法等の改正によって、養育費債権の一定額に「先取特権」という優先権が認められるようになったためです。
〈これまでの制度と何が変わった?〉
従来は、父母間で養育費の支払いを合意し、離婚協議書を作成していても、それだけでは原則として直ちに強制執行を申し立てることはできませんでした。
相手が養育費を支払わない場合、強制執行を行うためには、公正証書や調停調書、審判書などの「債務名義」が必要となるのが基本でした。
2026年4月1日以降は、一定の養育費について、父母間で作成した合意書面などを用いて、先取特権に基づく担保権実行の申立てができる制度が設けられました。
つまり、公正証書を作成していない場合でも、養育費の回収に向けた法的手続きを利用できる可能性が広がったということです。
ただし、これは公正証書が不要になったという意味ではありません。差押えの対象となる金額や請求の内容、書面の記載、必要書類などによって、利用できる手続きが異なります。
〈2026年4月施行の法改正で差押えできる金額〉
今回の法改正では、養育費債権のうち、子ども1人につき月額8万円を上限として、先取特権による優先的な回収が認められる仕組みが設けられました。

※上記は、先取特権が付与される養育費の上限額です。養育費として実際に請求できる金額や、必ず回収できる金額を示すものではありません。
〈養育費が月額10万円の場合は?〉
例えば、子ども1人の養育費を月額10万円と取り決めていた場合、先取特権に基づく手続きで優先的な回収を図れるのは、原則として月額8万円を上限とする部分です。
残りの月額2万円については、先取特権による手続きとは別に、公正証書などの債務名義に基づく強制執行を検討する必要があります。
一定の条件を満たす公正証書などがあれば、取り決めた養育費の全額について、債務名義に基づく強制執行を申し立てることが可能です。
なお、2026年4月1日より前に養育費の取り決めをしていた場合でも、同日以降に発生した養育費については、新しい制度の対象となる場合があります。 一方、2026年3月31日までに発生した養育費に、今回の先取特権の制度が遡って適用されるわけではありません。
離婚協議書と公正証書の違い
離婚協議書と公正証書は、どちらも養育費の取り決めを記録するために利用できますが、法的な位置づけや、支払いが滞った場合の手続きに違いがあります。

〈公正証書なら、すぐに差押えできる?〉
公正証書を作成していても、すべての公正証書が直ちに強制執行に利用できるわけではありません。
養育費の支払いについて強制執行を行うには、原則として、一定の要件を満たした公正証書であることが必要です。具体的には、支払いがされない場合に強制執行を受けても異議がない旨の「強制執行認諾文言」が記載されていることなどが重要です。 また、実際に差押えを行うには、裁判所への申立てなど所定の手続きが必要です。公正証書を作成しただけで、自動的に相手の給与や預金が差し押さえられるわけではありません。
離婚協議書だけで差押えを申し立てる際の注意点
2026年4月以降は、離婚協議書などの合意書面が養育費の回収に役立つ場面が広がりました。しかし、書面を作成しておけば必ず回収できるというわけではありません。
① 養育費の取り決めが具体的に記載されていること
養育費については、少なくとも次の事項を具体的に決め、書面に残しておくことが重要です。
* 養育費の月額
* 支払開始時期と支払日
* 支払終了時期
* 振込先や支払方法
* 子どもの氏名など、対象となる子どもを特定する情報
「養育費は適宜支払う」「子どものために必要な費用を負担する」といった曖昧な表現では、支払義務の内容をめぐって争いが生じるおそれがあります。
なお、実際の申立てでは、合意書面の内容や作成の経緯などについて、追加資料を求められる場合もあります。
② 差押えの申立てには所定の手続きが必要
離婚協議書があっても、相手が支払わないからといって、個人で相手の給与や預金を直接差し押さえることはできません。
裁判所に必要書類を提出し、利用する制度に応じた申立てを行う必要があります。書面の内容や当事者の住所・氏名の変更状況などによって、追加書類が必要になることもあります。
③ 相手の財産が分からなければ、回収が難しいこともある
差押えの手続きが利用できる場合でも、相手に差し押さえられる財産がなければ、実際の回収につながらない可能性があります。
相手の勤務先や預金口座が分からない場合には、利用できる財産情報の取得手続きなどを検討することも必要です。
法改正によって養育費の回収に向けた手続きは整備されましたが、実際に回収できるかどうかは、相手の財産状況などにも左右されます。
それでも公正証書を作成するメリットはある?
2026年4月の法改正により、一定の条件を満たせば、離婚協議書などの合意書面に基づいて養育費の差押えを申し立てられる場合があります。しかし、この制度の対象は養育費などの一定の債権に限られ、子ども1人につき月額8万円が上限です。また、2026年4月1日以降に発生した養育費が対象となります。
一方、慰謝料や財産分与などについては、この先取特権の制度を利用できません。これらの債権について強制執行を行うには、原則として公正証書や調停調書、判決などの債務名義が必要です。
そのため、養育費だけでなく、慰謝料や財産分与なども取り決める場合や、養育費の上限額を超える部分についても強制執行に備えたい場合には、公正証書を作成するメリットがあります。
公正証書に強制執行認諾文言を付けるなど、法律上の要件を満たせば、裁判を経ずに強制執行を申し立てられる場合があります。ただし、公正証書を作成すれば必ず全額を回収できるわけではなく、相手方の財産状況などにも左右されます。
離婚協議書の作成では、合意内容の整理が重要
離婚協議書は、単に養育費の金額を記載すればよいというものではありません。
支払開始日や支払終了時期、振込先、進学・病気などで通常とは異なる費用が発生した場合の取り扱いなど、将来の行き違いにつながりやすい事項についても、可能な範囲で整理しておくことが大切です。
一方で、どのような事項を記載するかは、家庭の状況や父母間で合意できている内容によって異なります。一般的なひな形をそのまま使うだけでは、個別の事情に十分対応できないこともあります。
また、離婚協議書は、離婚後に合意内容を確認するための資料となり、将来、取り決めをめぐって争いになった場合に重要な証拠となることもあります。
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